Moritani With Industry Since 1901 ISO14001 (Head Office, Osaka & Nagoya)

はじめに

1.はじめに
EnOcean 社はドイツ、ミュンヘン郊外にある無線スイッチのベンチャー企業である。 同じドイツのシーメンス社のベンチャー企業育成プログラムに選ばれシーメンス社のサポートを受けて2001 年に設立された。
EnOcean 社は無線技術のノウハウを開発、設計しその製作はシーメンスのライプチヒ工場に全面的に委託している。 従って35 名のベンチャー企業ではあるがシーメンスの後ろ盾があるので供給能力の不安が無い恵まれた会社である。
  
2.パワーハーベスト
2007 年中頃よりエナジーハーベスト又はパワーハーベストと言う言葉が巷で見かけるようになった。 意味は自然界のエネルギーを電気エネルギーに変えると言うものである。 エナジーハーベストの元祖と言えば風力発電や波浪発電と言える。
実際に着目されている技術は物理的なスイッチング動作を電気エネルギーに変換する物とペルチェ効果を利用した温度差発電である。

solution_haji_01.jpg

図1 左:物理動作を電力変換 ECO100 右:温度差を電力変換 ECT100

図1はEnOcean 社の実際のスイッチメカニズムである。 左図は主として照明スイッチに内蔵されているメカニズムで電磁石の原理を応用してスイッチング動作を電力変換している。 この製品は既に欧米では多くの無線スイッチの駆動電力として採用されている。 右図のスイッチはペルチェ効果を利用して温度差からサーモカップルによる起電力をエネルギー源として無線発信機を駆動する物である。

solution_haji_02.jpg

図2: 市販されているスイッチメカニズムを内蔵した照明スイッチ。

EnOcean の技術を採用した照明スイッチは取り付け位置の制限を受けないので電気工事は飛躍的に容易になるだけでなくデザイン上の制約も大きく広がる。 スイッチ位置まで電力線を引く必要も無くなればスイッチ位置を決めるのはビルの施工の最後でも良いので完成後のデザインを実際に見てから自由にレイアウトが決められる。

図3: 照明スイッチをガラス壁に取り付けた例。

スイッチには駆動用のバッテリーを内蔵させている訳ではないので電池交換等のメンテナンスは不要である。
このスイッチメカニズムはオフィスビルの照明スイッチへの利用が最も多いが北米では個人の住宅でも庭の外灯、スプリンクラー、ガレージの扉や屋内でもスタンドのスイッチ等、配線がし難い場所や線を這わせたくないケースで広く使われている。

変わった例では窓の開閉ハンドル(図4)への利用がある。

 solution_haji_04.jpg

図4: 窓の開閉レバーにバッテリーレス無線スイッチを内蔵している。

2 階の部屋の窓を閉め忘れていないか居間のインターフォンに内蔵された受信機でモニターする事で就寝前や外出時に各部屋の戸締りの状況が確認出来る。
この様なアプリケーションは昔から未来の家としてモデルハウスでは紹介されていたが電池交換のメンテナンスコストが障害となって実用化に到らなかった。それが欧米では既に商品化されているのである。

solution_haji_05.jpg

図5: シャワースイッチにバッテリーレス無線スイッチを内蔵している。

又、電力線をスイッチ部まで配線しなくて良いと言う事はAC100V の高い電圧が流れないと言う意味で安全性も高まる。 図5はその安全面から実現したシャワールーム内のスイッチである。 スイッチを押すとシャワーの元栓が電磁弁で開閉する仕組みである。

自然界のエネルギーを利用する上で最も古典的なものがソーラー発電である。 EnOcean 社ではソーラーバッテリーを利用した各種の無線スイッチも実用化している。 図6はEnOcean 社が通常使うソーラーバッテリーである。 OEM 機器に内蔵出来る様に小型の物を採用している。

solution_haji_06.jpg

図6: EnOcean が採用している標準ソーラーバッテリー。

EnOcean が提唱するソーラーバッテリ型の無線スイッチは空調温度の設定、温度検知器等のリアルタイムの反応を求めないアプリケーションが多い。
その理由は夜間や閉ざされた空間で光が当たらない時でもある程度の動作保証をする為に電波信号の発信頻度を下げて蓄電させている為である。 (図7参照)

solution_haji_07.jpg

図7: 設定信号は90 秒毎に送信されている。

ソーラーバッテリーにより昼間の太陽光か蛍光灯等の光を利用して回路にはある程度蓄電される。 その電力を利用して夜間や光が届かない場合でも72時間程度の動作保証をしている。

solution_haji_08.jpg

図8: ソーラーバッテリーを利用したバッテリーレス温度設定スイッチ。

図8はソーラーバッテリーを採用したバッテリーレス無線スイッチの例である。 ビル内空調の温度センサーと温度設定スイッチに使われている。 設定値、又は周囲温度のデータは通常は5 分~10 分間隔で送信される。 設定値、又は周囲温度が一定値以上変化すると90 秒間隔でデーターを発信する。
ソーラーバッテリーを利用したアプリケーションは他には窓の開閉センサー、会議室用の照明スイッチと連動した動体センサー(図9)や変わったところでは商店の冷蔵ケース用温度センサー(図10)がある。

solution_haji_09.jpg

図9: ソーラーバッテリーを利用したバッテリーレス動体センサー。

動体センサー(図9)の場合はその信号発信はリアルタイムである必要があるのでソーラーバッテリーセルは大き目の物を採用せざるを得ないのでデザインに制約が出来るのが難点である。

 solution_haji_10.jpg

図10: 冷蔵商品ケース用無線センサー(左)と工業用温度センサー(右)

冷蔵商品ケース用のセンサーは温度制御ではなく利用者によるケースの閉め忘れや昼間の時間に一時的に日光が当たる等の特殊要因でケースの内の一部で異常な温度変化を検知するものでユーザーが後付で設置する事が出来る。

EnOcean 社のパワーハーベスト技術は自然界のエネルギー又は現在使われていないエネルギーを利用して無線信号を作り出している。 使われていないエネルギーを利用出来るようにする為には微小電力でも無線発信機が駆動出来る高効率の電力変換技術が必要であり、同社の技術はそれを可能にしたものである。

EnOcean 社ではこれまでに紹介した物理的な動作、温度変化、ソーラーバッテリー以外に生体エネルギーや化学変化を利用した物等、各種のパワーハーベスト製品の開発を進めている。

 solution_haji_11.jpg  solution_haji_12.jpg

図11: EnOcean の無線回路の構成。      図12: ロータリージェネレーター。(Mini Dynamo)

一例を上げると回転運動のエネルギーを利用した無線信号の出力デバイス(図12)や化学反応を利用したマイクロロボット(図13)の様な製品も試作品として開発している。

 

solution_haji_13.jpg

 

図13: 砂糖を入れると科学反応により動くマイクロロボット試作機EcoBot-II。

人体エネルギーを利用した物としては咽喉の外側に振動センサーを貼り付けて筋収縮の振動をエネルギーとして利用する物を研究している。

3.利用コスト
EnOcean 社技術は開発されたばかりであり実績も累計納入ベースで照明用スイッチが100 万
個程度と少ない。その為製品自体のコストは安いとは言えない。
それが欧米で売れている理由は、恐らくはイメージが先行しているのではないかと思われる。 エナジーハーベスト、パワーハーベストと言えば節電、CO2 対策になると言う事で企業イメージに良いと言う物がある程度はあると思われる。
勿論部品コストでは無くトータルの製品ライフコストとして見れば現在の価格でも経済合理性は成り立つ。

表1:EnOcean 技術のバッテリーレス無線スイッチを照明スイッチに採用した場合のコスト。(Wago 社データ)

表1では通常の照明スイッチを使った場合のオフィスビルの建設コストを1 0 0 としてEnOcean 社技術を採用した場合のコスト比較表である。当然であるが配線材(銅)や工事費用が大幅に減るので、工事コストの面から考えれば無線スイッチにした方がスイッチ自体が高くともトータルコストは割安になる。 更にビル内でのレイアウト変更時の工事費用となると、圧倒的に無線スイッチの有利となる。
Schmidt Reuter & Partner 社の試算では建設費で10%、テナント移転等によるレイアウト変更時は実に80%ものコスト減になると発表している。

 solution_haji_16.jpg

図14: 照明、HVAC 等の無線信号を受ける集合受信機(上)。天井裏に設置する(下)。

EnOcean 社技術は新設のオフィスビルだけでなく古いビルの近代化工事でもコストメリットが出せる。 古いビルでは配線をする為の配線用の壁内の導通パイプが、無いか埋まっているケースが多い。 その場合新たに配線ルートを工事する必要があるが、無線スイッチであれば最初から配線ルートは必要ないので、工期の短縮までもが可能となる。 実際にオペラハウスとしては世界的に有名なゼンペルオペラではEnOcean 社技術を採用して建物の近代化工事を実施した。

 solution_haji_17.jpg

図15: ドレスデンのゼンペルオペラ。

4.今後の開発方針
EnOcean 社では現在提供している各種のバッテリーレス無線スイッチの小型化を進めている。
小型化することにより利用可能なアプリケーションを増やしコスト削減に努める。 無線発信部の回路もASIC 化を進めており、既に大手ユーザーには試験的に出荷、製品に搭載、今後はワンチップ化する事で既存の無線スイッチに対して価格競争力をつけることで飛躍的な量拡大を狙っいる。

 solution_haji_18.jpg

図16: 大手ユーザにのみ出荷の始まったASIC化された製品 。

発電機構の小型化と無線回路のASIC と同様に重要なのが自然界の利用されていないエネルギーの利用を進めることである。生体エネルギーや空中の電磁界の利用等EnOcean 社が課題として研究中のテーマはまだ数多くある。